本文へスキップ

高知県天然記念物 土佐錦魚 (とさきん)

春〜夏

春のめざめ

春を呼ぶ明弐歳

『高知にゃ師走に梅ざかり』と歌には有るが、俗に九十九里の海岸線をもつ高知県が、どことも12月に梅ざかりということはない。新暦でなく、旧暦で考えてみても室戸や足摺岬に近い海辺とか特に日当たりの良い場所ならいざ知らず、高知の梅のさかりはやはり2月にかかる。
 日本列島に前線が停滞し、それに沿って低気圧が東に進むようになると南方海上の高気圧から暖かな空気が流れ込んできて時には17度・18度という異常な温度に包まれる。昔からいう三寒四温の温の訪れだが、そんな日には梅が一斉に花を開く。そして、南国高知の人はどこからともなく流れくる清らかな梅の香りに気づくのが常であるが、このような時にはトサキンも凄く活気づく。もともと体温のない彼らであるから、外の温度に対しては非常に敏感で水面に群がってきては餌を欲しがってくる。
冬場には、水の汚れも少ないので余程の状態にならない限り水をかえる必要もなく、サイフォンでセメントの水槽に溜まった餌かすや糞を吸い出す程度にとどめるので、緑の苔が薄く一面に付着する。澄んだ水と緑の苔そして日光と、春もどきのこのような環境の中でトサキンはその体色の赤さをいっそう増してくるし、当歳からようやくに年を越した魚でも、成長の速いものは思春期に移り雄魚はその前鰭のへりに追星といってニキビのような白点がつき、雌魚はとりあげて腹を指でおすと異様な柔らかさを感じるようになってくる。


整形

 当歳を越したとはいっても、実際は生後9か月くらいのものであるから、まだまだ魚体が不完全ではあるが、もう体長は尾鰭を合わせて7センチほどになり、ぼつぼつ整形手術をしてもいい時期でもある。一般に産卵直前には余り魚体を傷めないように、とはいうが、2月下旬から3月初めなら多少のことはかまわない。
 トサキンのウド木が活発になって気づくのは、いままで見事な体形と思って大切にしていたものにも意外の変化が現れてくることで、
@左右水平に良く張って格好よく揃っていた尾鰭が意外と伸び悩んでいるもの、Aその反対に、驚くほど立派な鰭に成長しているものもあるし、B尾鰭の先端に極度の切れ込みが現れたもの、C良い尾鰭でも重なりのシワが入ったもの、Dいつの間にかやや片方につり上がりはじめたものなどが出る。
@は、なお暖かさの増してゆくにつれ、よく餌を与えて丸鉢の中に飼い、静かにして置くと娘ざかりの花が咲くこともある。Bの俗にサクラという切れ込みは、ないに越したことはないが微小なものは問題にならない。鋏で丸く切り落としておいても、これはなかなか良くなる見込みがない。人によっては、尾鰭の中央部から大きな筋を切断するともいうが、筋がもと通り伸びた場合はまず同じ形になることが多い。Cの場合は、中央の大きな筋が一緒に重なったものを俗にツマミというが、これは稚魚の時から判っていたはずで残念だがどうにもならない。そのほかのシワは、尾のつけ元から針で突き刺して尾先に引き下ろすと扇形にその部分だけがはずれるので、そのつけ元を引き抜いておけば癒着してうまくゆくこともある。Dは、この時期には角をためて牛を殺すの例えのように、絶対にいじらないほうがよい。産卵期も終わり、夏になって完全成魚になった時、つり上がった方の尾鰭をおし下げて脱臼させておけば1ヶ月もすると完全に良くなり、これは簡単である。
 その他、片頬のくぼんだもの、全体がいずれか一方に湾曲するなどのことも起きるが、これはこの時点ではどうにもならないと思ってよい。エラ蓋の先端がカーブするエラゾリは、微粘膜の異常であるから、堅いエラの本体を傷つけないように鋏で丸く切り取っておけば案外とエラ穴の奇形を残さずに治癒するもので余り心配はいらない。

治療

 春先に、一番注意しなければならないのは、多量の餌をにわかに与えすぎないことで、これは胃腸障害や脂肪太りを起こし斃死したり産卵率低下の原因ともなるのでよく注意する必要がある。
 2月を終わり3月に向かうと、いよいよ金魚のシーズンに入る。まだまだ気温が定まらないので、寒さに気をつけなければならず、ひとまとめで多くの魚を角い大きな水槽で飼う状態から解放するのは、3月中は早すぎる。なによりも大切なのは、昼夜の温度差で、うっかり油断すると寒さに傷めてしまって、時には魚体に白いネバリのつくことがある。
産卵前にこんなことが起こるのは、一番の悲劇で、『九仞の功を一簣に虧く」の恨みを残しかねない。万一このような病状を見せた場合には、フラネース顆粒という薬剤で短時間、魚体を洗うという即効的療法もあるが、症状が軽ければ、舌でなめてやや鹹いと思われる程度に食塩を水に溶き、たっぷりそれをひたした脱脂綿で手早く魚体のネバリを拭きおとし、常温18度程度の水槽の中で1週間もおけば完全に治癒するもので、これが最も簡単で自然な治療法である。塩水で魚を拭くと、多少魚に元気がなくなることが多いが、それは全くの一時現象で心配はない。


早い産卵

春の彼岸が過ぎて、割と暖かい日が続くと3歳・4歳の成魚では3月の下旬に産卵する事がある。
特にビニール温室の中や加温水槽を利用して冬場の飼育をするとこのようなことが起こる。こんな場合に、最も注意しなければならないのが、産卵時の水槽と産卵後の孵化用水槽の水温を下げないことで、4月末から5月初めの水温を考えてヒーター調節をしないと突然におこる外気温度の下降のためせっかくの卵が無精卵となって終わったり、たとえ受精して孵化しても稚魚が寒さに耐えられずに死滅してしまうこともあるから危ない。

産卵と孵化

 ソメイヨシノはもう散ったのに、牡丹桜がいつ沈むともない太陽にほの赤く燃える。それでも土佐の夏は早いので4月も中旬を過ぎると昼間はもう夏の気配である。じゅうぶんに給餌されるようになったトサキンたちは、満腹の後にお互いの体を叩き合っては求愛の仕草をしはじめる。やはり性欲は食欲の次ぎに起こるらしい。早く成熟したものは別として、多くの魚は4月の下旬から5月にかけて第一回の産卵に移るのが普通で、バラの花の咲くシットリと湿った朝など6時〜7時ごろ必ず結婚の行進が行われはじめる。
 産卵には自然交配と人工交配の2種類がある。自然交配の場合、注意しなければならないのは折角の美しい魚体を傷めないことである。子孫増殖の情念に狂った多くの雄魚が、産卵して疲れ果て水面に横に浮かんだ雌を突き上げて、エイエイと押してゆく光景がよく金魚鉢には見られる。見るも無惨であるが、こうなってはトサキンは駄目になる。そんな時には、早く雌魚を取り上げ指で腹部を押してみて卵が残っていなければ別鉢に隔離して休息さしてやらねばならない。人により、産卵に川の藻を入れる人も有るがこれは避けたほうがよい。というのは、川藻には必ずといってよいほど黴菌やイカリ虫など何かが付着しているので大切な魚に病気を運ぶ危険性がある。棕櫚箒の古いものでよいから棕櫚の毛を取って灰汁抜きを兼ねて熱湯で殺菌してから使用するがよい。卵を完全に拾うことは難しいので産卵完了後、すぐ親魚を別の水槽に雌雄別々に移す事をしなければ折角の卵も親に食われてしまう危険がある。交配には、雌魚一つに対し雄魚2つは必要とする。というのも、金魚は産卵数が非常に多いので雄魚の精液が希薄になるのと雄が一つでは不足する関係から是非そうするのがよい。更に、雄魚でも魚により精液の排出量がすくないものもあるから、3歳・4歳という黄色い大粒の卵を多数に産卵する完全成魚の雌に対しては、特に精液排出量の多い完全成魚の雄魚を用意しなければならない。
いかに魚形が良くても、この働きでは余り役に立たないものもあるから厄介であるし、又、雄はじゅうぶん発情していなければ駄目で、ある程度時間をかけて結婚の行進を続けさせておいてからでないと,徒に無精卵ばかりとる恐れが出る。
このため人工交配を行う場合は、なおさら雌雄を絞り合わせるチャンスが難しくなり頃合を見計らう熟練さが必要とされる。  人工交配では先ず、結婚の行進が始まるといい体形の雄を選び最低三つをその水槽に入れる。突然に居場所を変えられた雄は、暫くはポカンとしているがやがて異性を意識し始めて猛烈に雌を追い始める。少なくとも10分ぐらいその状態を続けさせて、まず、雌の産卵状態を確かめてから、別に準備しておいた普通家庭用の洗面器(琺瑯びきが良い。プラスチックものは、ホルマリンなどの成分が浸出してよくない)で、7分通り水を張ったもの(この水も同じ水槽の水をとるがよい)の中に雌を入れ、次ぎに雄を入れ、各一つずつそれぞれの手に(頭を手前にして)とりあげ、手をゆり動かしながら、静かに腹部を抱き合わせる形で圧迫すると、縄のような状態で輸卵管から出る卵と、煙のように広がる精液とが混ざり合うわけで、卵の数はなかなか多いから手早く雄を次々と取り替えてゆかねばならないが、この場合、肝心なのは洗面器の一部にのみ積み重ならないように広げて行く事である。もしそれを忘れると、折角受精していても無精の腐敗卵と重なって、ともに腐ってしまう事になる。したがって産卵数の多い時には、洗面器を二つ或いは三つ準備して、なるべく卵を散らすように気を配るがよい。朝の交配後は、直射日光の当たるのを避けて置き、その日の夕方に洗面器に付着した他の汚物を直接手を触れずに軽く水で洗って新しい水を一杯補給し、やはり直射日光を避けて暖かいところに置いておけば、4月末から5月の初旬なら4日〜6日で稚魚が孵化する。受精卵は透明で、日がたつにつれて黒い粒に変わってくるが、もし途中で腐敗卵の多い事に気づくなら早めに別の大きな水槽に洗面器とも沈めこんでおけば、腐った悪汁を拡散させる効果がある。同じことは、孵化後の抜け殻の腐り汁についても言えるのであって、孵化すればなるべく早く、しかも稚魚に振動を与えないように、洗面器のみを水中から斜めに引き抜くことを忘れてはならない。


育魚

卵を破って出た稚魚は、暫くは余り活動を見せないが、やがて上に向かっての上昇遊泳を試みるようになる。稚魚養殖の成否は、孵化後の10日間にかかるとよくいわれる通り、この10日の間がヤマである。その間は強烈な日光からも、雨や風からも護ってやらねばならない。そのためには通風を良くするために一部をすかして、孵化用水槽にはビニール障子をかけてやるがよい。
 こうして保護された稚魚たちは、その腹部に、神から与えられた栄養分をつけているので、何も食わさずとも4日・5日は大丈夫、水平に水中を泳ぎまわり始め、食欲が出た頃に、鶏卵を堅く茹で、卵黄を取り出し、薄い絹目の布(女性用のナイロン・ストッキングの切れがよい)に少し包み込んで揉みながら、量を少な目に散布してやれば、1時間もすると、泳いでいる稚魚の腹部が黄色い卵の粉で一杯になっているのが見られよう。茹で卵を長持ちさせる為に、ビニールでくるんで冷蔵庫に入れるはよいが、それでもよく変質するので与える時は必ず注意しなければ中毒を起こす事になる。このようにして、吟味しながら、餌の与えすぎのないように、なるべく余分が水底に沈殿しないように心がけて更に一週間もすれば、稚魚は頭が大きいながらも尾鰭に変化が見え始める。
 次は生きたミジンコがあれば最適であるが、これが手に入らないとすれば、アカコ(イトミミズ)を板の上でなるべく小さく切り崩し、茹で卵と同じ要領で布に包んで揉み与えておれば、だんだんと大きくなってくる。少し稚魚がしっかりしてくれば、乾燥ミジンコを細かく粉にして与えてもよいが、こうして孵化後二十日もたつと、もう選別にかからねばならない。
もしそのままにすると、成長の早いトビゴが小さいのを食ってしまう弱肉強食の自然界の法則が支配して一切が駄目になってしまう。まことに金魚の世界は惨酷であり、しかも、その成長の早いトビゴたるや、まるで怪物のような存在でそんなものには、まず殆どといっていいくらい屑者が多い。奇形や駄金に近い稚魚の発生率は、やはり二年目になって始めての産卵という未成熟の親魚の卵に多く、よい魚は3歳・4歳どころの雌魚から出る率が多いのは、選別に当たった人誰もが気づく事で、若い親から出る卵は無色透明で形も小さいし、余り欲張って魚に無理をさせずに翌年を楽しみにするほうがよい。
 大きな水槽からの選別は、初め洗面器に追い込んでごっそり取り、後は杓子ですくい取るがよいが稚魚の成長につれ、回数を重ねて行くにつれてそのコツは会得される。これは根気の要る厄介な作業だが、形の整いの悪いものを捨てながら大・中・小と選び分けてゆくのはまた楽しいものであって、初心者には、このあたりから魚を見る目、つまり将来よいものになるか否かを判別する眼力がつき始める。体長一センチにもなれば、背鰭の有無、尾鰭のツマミ具合などがよく分かるようになるが、一番難しいのは、尾鰭が将来立派のものになるかどうかの判定であって、八の字型のユトリのある柔軟な尾、サクラ尾でないものを選び出す事が大切である。こんな時からトサキンとして仕上がったような恰好の子魚にろくなものはない。
トサキンの夏6月下旬から7月ともなれば、餌に使うアカコ(イトミミズ)の量も多くなり飼育者には最も忙しい時期を迎える。だからといって、その頃に人工餌を与えてはどうしても成長が悪く、やはり成長期には肉質のものがよい訳で、これを節約していては魚体にふくらみがつかず痩せて長い魚になってしまう。この頃にアカコを手に入れる労を惜しんでは、品評会での入賞魚をつくることはまず覚束ない。朝方・昼・夕方の3回の給餌は是非続けたいもの。多忙な人では沈み餌といってアカコを入れておく人もあるが、これは水中の酸素量にも影響するので避けたほうがよい。 
 日照度の強い暑い季節で有るが、飼育の水槽もまたたいせつで一センチ以上の体長になれば暫くは必ずスリ鉢形のセメント丸鉢を考えていなければならない。それは、余り長い直線コースを急スピードで泳がせていると、魚体に丸みがつかないし尾鰭の張りも悪くなるからで、静かに旋回させておくに越したことはない。しかし、これも余り長期間そのままにして置くと逆に前に詰まってピーマンのような異常なずんぐりになるので、要は魚体が急速にできてくる時期と尾鰭のできてくる時期とを考えて、丸鉢・角鉢を上手に使い分けるようにしなければならない。
 この頃はまた、鉢の水が緑に汚れるのが早く、鉢そのものにも厚く青い苔が付く、これをそのままにすると稚魚の成育が悪くなるので、この金魚鉢の丁寧な掃除が1週間に2回は必要となる。金魚の体は周囲の色に対応して変化する性質を持っているので、掃除をせずにそのままにすると体色は青黒くなり、また、苔を餌にするのどうしても太りが鈍くヤセぎすになってくる。勿論、金魚藻や水草などを入れるのも禁物。魚体に病気をつけたり、体を引っ掛けて体形を損なう事もあるから、何によらず異物を鉢には入れないこと。これは親魚についても同じことが言える。ただし色変わりするときは別であって、このときには緑がかった水の中を泳がせ餌を余り多く与えないがよい。純白のトサキンは白流れといって、いかにその体形が良くても値打ちが半減するから特に注意する必要がある。
 次に大切なのは水換えである。他の金魚に付いても同じことが言えるが、特にトサキンは新水に弱いから必ずよくこなれた水に入れねばならない。洗った鉢に水道の水を張った場合、夏場日中の日向で1〜2時間置いた後に金魚を移すがよい。万一急ぐ場合でも、他の古い溜め水1、新しい水2の割合で混ぜ合わせて使用することである。
真新しいセメント鉢を使うのなら、鉢の水に加里明礬を入れ4〜5日間灰汁どめをし(この明礬は多い目に入れてよい)、排水洗浄の後、他の汚れた緑の古水を張り4,5日して水換えを行い、念のため何か他の魚を入れ十分に試験をしてトサキンを移すのがよい。
 トサキンの夏は全く忙しいの一語に尽きる。餌の手配から、金魚鉢の掃除、日照度の加減、朝早くから日暮れまで、勤めに出ていると、時には電灯の下で夜の蚊にさされながら面倒を見るということにもなる。好きでなければできない苦労だが、明けても暮れてもトサキン・トサキンと、そればっかりが頭に引っかかるようでなければこの世話は出来ない。
いい魚になれば何万円ともいえるだろうが、それも所詮、自分の飼っている目白に自分で値段をつけて喜ぶようなもので、ケチな欲心を起こすのは大間違いである。季節に拘わりなく、四季を通じて水に咲く美しい花。そう思って可愛がらなければ立派なトサキンにはならない。

品評会

 7月から8月に移る頃は、品評会の日程が知らされるようになる。知人の飼っている金魚を見に行っては、その成長に驚き落胆或いは奮起するのもその頃である。高知では中央公園がよく使われる。黒潮の海原を越えて寄せる南の風が、夏の日差しに灼けたセメントの地表を撫で、吹き上げる噴水の水しぶきに混ざって緑の木陰と共にこの公園にはともかくも憩いの場所ができている。戦災を受けてから30年を越した今、周りの家並みにはもう昔は残っていないが、大正・昭和と続いてきたトサキンの品評会に集う人の心は昔もそのままで、青い空の下、灼熱の太陽を浴びて並べられた洗面器に注がれる目は、熱心に美しい土佐の生命の凝縮ともいえるトサキンに集中する。この多忙な時代に、よくまあ閑な事といえばそれまでだが、そこにこそこの風土に育まれた土佐の心がある。
 老練な審査委員長の目を中心に、次々と選り分けられてゆく金魚たち、それを追うかのように期待と感嘆のうめきをもらしながら数多くの人の目が並べられた器の列を進んで行く。
3歳・2歳・当歳と分けて、それぞれの部門に金色の優勝・銀色の一等・赤色で二等と入れ終わった頃、またひとしきり出品者たちの批評するざわめきが始まる。 品評会の風景品評会とは、トサキンの飼育者にとっては一つの大切な研修の会でもある。それというのも日常は自分なりの癖で飼っているものが、ここでは比較検討の場が与えられる訳で、長い魚体の好きな人も、短い魚体の好きな人も、本当のトサキンとはどのような形でなければならないかを、痛いほどその脳裏に叩き込まれる。そして、その血統や餌の与え方、飼い方などを学ぶことができる。それにしては出品料を出すにしても誠に安い授業料である。口を上品に細く育てるにはどうしたらよいだろう。赤い色を美しく濃くするにはどうすればよいのか。ある程度は血統もあるが、それを克服するには、どのような飼い方をしなければならないか。それぞれが、その人なりにやっているのであるが、品評会では、審査員によって出された結果から、逆に理想のトサキンへの飼い方を辿る事ができるし、遠慮なしにそれぞれの体験を聞く事もできるのであってひとり静かに飼っている金魚が果たして良いか悪いのか、この場所を借りなければ判断はつかない。
 その意味で品評会は、トサキンの愛好者には賞を貰うか貰えないかは別に絶対になくてはならない会でもある。
 ビニール袋に納めた金魚をポリバケツに入れて、それぞれの方角に帰って行く人々の後姿を眺めながら、こうしてトサキンは更に美しく、より強いものになるのだと考えるのは世話役の人たちばかりであろうか。